能の演目は現在、250曲ほどあります。
それらのほとんどが室町時代に書かれたもので、当時の世相を知る生きた資料となっています。
その中の140曲ほどが現在でもよく上演されています。
能を初めて見ようとしてチケットをとるとき、できれば演目を選んで見るのがおすすめです。
能は理解するものではなく感じるものですが、初めてのときはわかりやすい演目のほうが世界にスッと入り込めます。
能の演目で有名なものはいくつかありますが、有名なものがわかりやすいかというと必ずしもそうではありません。
この記事では、能のジャンルと有名な演目、これから能を見る方にとっておすすめの演目をご紹介します。
能の演目はどんな分類になっている?
能の分類は江戸時代、幕府の式楽(儀式のときに演奏する音楽劇)となった際の分類が用いられています。
江戸時代、次に紹介する5つのジャンルの演目を丸一日かけて順番に演じるのが正式でした。
ジャンルは次の5つに分類されます。
神・・・初番目もの・脇能
主人公:神様
世界観:おめでたさ、神話の世界
代表的な演目:天照大御神(あまてらすおおみかみ)が登場する「絵馬」
所感:人知の及ばない神の世界、恐れ多くありがたい
男・・・二番目もの・修羅物(しゅらもの)
主人公:源氏や平家の武士の亡霊
世界観:この世に残した悔い、無常感、修羅場
代表的な演目:一族が滅亡し自ら命を絶った平清経の亡霊が夜、妻の夢枕に立つ「清経」
所感:人をあやめた悔いにさいなまれる
女・・・三番目もの・鬘もの(かづらもの)
主人公:美女
世界観:優美、はかなさ、嫉妬、幽玄
代表的な演目:三保の松原で天女が舞う「羽衣」
所感:衣装も華やかで見応えがある、初心者におすすめ
狂・・・四番目もの・雑能
主人公:物狂い
世界観:悲しみ、孤独
代表的な演目:幼い我が子を亡くした母の狂おしいほどの悲しみを描く「隅田川」
所感:劇的に演じる演目が多い、初心者におすすめ
鬼・・・五番目もの・切能
主人公:鬼や天狗など人間ではない存在
世界観:異界、人力の及ばぬ不思議ダイナミックで動きがある
代表的な演目:「土蜘蛛」
所感:ダイナミックで動きがある、初心者におすすめ
能の演目で有名なのは?
能の演目で上演回数も多く、よく知られている有名な演目をご紹介します。
高砂
多くの和歌が読まれ、国がますます栄えるようにと願い住吉明神が祝福する。
昔は結婚式などおめでたい席で、披露されることも多かった。
井筒
井筒とは井戸のこと。モテ男を夫に持った女が、耐えて待つ女の寂しさを旅の僧に語って聞かせるストーリー。
井戸が効果的に使われ、秋の寂しい風情までをも感じさせる。
隅田川
人買いにさらわれてしまった幼い我が子が亡くなったことを、人づてに聞いて嘆き悲しむ母親。
その母親の前に我が子の亡霊が現れる。しかしすぐに消えてしまい、母親の悲しみはいっそう深くなる。
安宅
都を追われた義経がみちのくに逃げ延びる際、安宅の関所(あたかのせきしょ)に差しかかる。
関守が関所を通してくれず、お供の弁慶が機転を利かせて山伏だと偽り通過を許される。弁慶の義経に対する忠誠心が見もの。
能の演目で初心者におすすめは?
初めて能を見る方にも比較的わかりやすい能をご紹介します。
羽衣
三保の松原に舞い降りた天女は衣を松の枝にかけて景色を楽しんでいた。
そこに漁を終えた漁師が通りかかり、美しい衣を持ち帰ろうとする。
天女が返してほしいと頼むと、漁師が返したらすぐに天に帰ってしまうからと返してくれない。
天女は悲しくなり涙を見せる。
漁師があきらめて返すと天女は喜び、景色の美しさをたたえ幸多かれと祈り舞を舞いながら天に帰っていく。
「天女の羽衣」として昔話でもよく知られているお話なのでわかりやすく、天女が私たちの幸せを祈ってくれるというストーリーも幸せに満ちていてハッピーになれます。
安達原(あだちがはら)「宝生流では黒塚」
熊野神社の修行僧がみちのく巡礼の途中、安達原(あだちがはら)の山中で一夜の宿を借りる。
女は修行僧に一晩の宿を貸すが、決して部屋を見てはいけないと言い残して、裏山にたきぎを取りに出る。
修行僧がこっそり部屋をのぞくと、たくさんの屍(しかばね・・死体)が転がっている。
安達原に鬼が住んでいるといううわさがあったが本当だったと気づいた修行僧が逃げ出すと、本性を表した鬼が追いかけてくる。
修行僧の祈りによって鬼は退散した。
このお話も昔話でおなじみの「食わずにょうぼう」とも似ていますね。
わかりやすいお話です。
この他にも、「葵上」「西王母」「土蜘蛛」もおすすめです。
能の演目のおすすめ、まとめ
わかりやすく楽しめる演目を能の世界への入り口にして、その先にはさらに深い世界が広がっています。
最後まで読んでくれはって、ほんまにおおきに〜〜ありがとうございます!