「羽衣」は能を初めて見る人や初心者におすすめの演目です。
日本の伝説「天の羽衣(あまのはごろも)」に題材をとったストーリーで、子どもの頃に読んだり耳にしたことのある人もいるでしょう。
しあわせ気分にひたれおめでたく、気分が上がる演目です。
能って難しそう、とっつきにくい・・・そんな人にもおすすめです。
この記事では、演目「羽衣」のあらすじや見どころ、原作との興味深い違いについてもお伝えします。
羽衣のあらすじと見どころ
登場人物
- 天女
- 漁夫白龍
- 漁夫たち
場所:駿河国、三保の松原の海岸
季節:春
あらすじ
漁を終えた漁夫白龍は三保の松原で、松の枝にかかっている美しい羽衣を見つけます。
白龍は自分の宝物にしようと、美しい衣を持ち帰ろうとします。
すると天女が現れて、衣を返してほしいと泣きながら訴えます。
白龍は返す代わりに天女の舞を見せてほしいと言います。
しかし、この衣を返してしまったらあなたは舞を舞わずに天へ帰ってしまうのではないか、と白龍は疑います。
天女はこう言いました。「疑い深いのは人間のほう。私は嘘はつきません」
天女は羽衣をまとい、三保の松原、富士山などあたりの景観を天上のような美しさだと誉めたたえながら舞を舞います。
地上にたくさんの宝を降らして天上に帰っていくのでした。
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見どころ
天女の高貴な装束と優雅な舞は、見る人にしあわせを運んでくれます。
まさに幽玄の世界を体現した能といえます。
天女の無垢で純粋な心も、見る人の心を打ちます。
羽衣をとられた天女の死なんばかりに悲しむ姿も共感を誘います。
舞のクライマックス、人々のしあわせを願い宝を降らせる場面は、ハッピーな気持ちにさせてくれます。
全体を通して流れる美しい世界観に魅了されます。
羽衣は衣装も見どころが多い
天女は羽衣を松の枝にかけて水浴びをしている設定で登場します。
上半身は白地の衣装、摺箔(すりはく)という金箔を織り込んだ装束、下半身は腰巻姿、これで半裸を表しています。
頭の上には、冠(かんむり)をのせています。
「羽衣」を白龍に返してもらった天女は、白い羽衣を羽織ります。
天女らしい高貴な雰囲気が感じられて、シンプルですが高級感のある装束は見応えがあります。
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伝説「天の羽衣」と能「羽衣」の違い
「天の羽衣(あまのはごろも)」という昔話をご存じでしょうか。
天女は三保の松原で水浴びをしていると、漁師に羽衣を隠されて天に帰れなくなってしまいます。
羽衣を隠されたことを知らない天女は、漁師の妻となり一緒に暮らします。
ところがある日天井裏で、漁師が隠した羽衣を見つけた天女は、そのまま天へと帰ってしまうのです。
伝説ではこのように下心のある男の卑怯な物語として描かれていますが、
能では俗っぽさを切り捨て、めでたく美しい物語に仕立ててあります。
能では思い切った切り捨てや抽象化を進めることで、逆に主題がくっきりと際立ちます。
能の羽衣は美しさとめでたさを主題に据えたしあわせなストーリーとなっています。
実際は天女は人間界で不本意なくらしを虐げられた?
漁師の元で数か月〜数年を過ごした天女、
毎日天の上に帰りたいと思いながら、漁師の妻となり、不本意な夜を過ごしながら天の上に帰る機会をうかがっていました。
私の居場所はここではない、と漁師に抱かれるたび悲しい気持ちになったことでしょう。
かわいそうな天女。
そんなある日、天井裏で天女の羽衣を見つけたときは、ほんとうに喜んだことでしょう!
これでやっと天上に帰れる!
下界よさらば!私は元の場所へ帰ります。
宝を降らせながら天上に帰って行く様子に、天女の気持ちが凝縮されています。
羽衣の舞台は三保の松原?羽衣の松は今でも残る?世界遺産にも登録され浮世絵でも有名
三保の松原は、静岡県静岡市にある海岸です。
約7キロの海岸に松林が続き、目の前には雄大な富士山がそびえます。
羽衣伝説にも出てくる羽衣の松は実在し、現在の羽衣の松は3代目です。
2代目は樹齢650年を過ぎて衰弱が激しくなり2010年、3代目に世代交代をしました。
3代目の「新・羽衣の松」は推定樹齢200年です。
江戸時代の浮世絵師・歌川広重も「駿河三保之松原」として描くなど、昔から富士山が美しく見える景勝地でした。
世界文化遺産にも登録され、日本有数の名勝として知られています。
三保羽衣薪能
毎年10月に羽衣の松を鏡板に見立て、三保羽衣薪能が開催されていますが、新型コロナウィルス感染症の影響で2020年は中止となりました。
ちなみに2021年度からは、三保の松原から場所を移して静岡市三保松原文化創造センター「みほしるべ」前広場で三保羽衣薪能が開催されます。
三保の松原のすばらしい景色の中で、能の羽衣を鑑賞できるなんて本当にすてきな企画です。
2020年はコロナのために中止になったのは残念ですが、2021年からは三保の松原から場所を移して行われることになりました。
海岸での上演は、潮風が強かったりとかいろいろ上演に苦労を伴うのですね。
しあわせ気分にひたれるおめでたい演目といえば「翁」もはずせません。
翁は新年はじめの演目として上演されることが多いです。
まだ見ていない方はぜひ一度、「翁」をご覧になるのがおすすめです。
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