能面を言い表す、「能面のような顔」ということばがあります。
一見無表情に見える能面を怖いと感じる人も少なからずいるようです。
わたしも能をよく知らないときは、能面を不気味だと思っていました。
しかし、能に親しむようになって能面の見方が変わり、美しいとさえ感じるようになりました。
この記事では、能面の小面(こおもて 若い女性の面)の美しさについて掘り下げてみたいと思います。
能面・小面のいきいきとした美しい表情は細部にあった!
先日生まれて初めて、能面を至近距離で食い入るように鑑賞しました。
特に小面(こおもて)を中心とした女面を近くで観察してみると5つの発見がありました。
- 意外と受け口
- 左右非対称
- 小面(こおもて)は実はふたえまぶた
- 表情の決めては口もと
- 丸みを帯びたなめらかな曲線
順番に説明していきますね。
能面は意外と受け口
能面を横から見ると小面の口は意外と受け口であることがわかります。
受け口にすることで、口もとに表情が生まれます。
今にも語り出しそうな、物言いたげなそんな気配を感じました。
能面は左右非対称
能面も人間の顔と同じように左右非対称に作られています。
これは、左右非対称のほうが、表情を作り出せるからだといわれています。
無表情といわれる能面ですが、目を凝らしてすみずみまでながめてみると、意外な工夫がされていて驚きます。この記事では能面に隠された秘密と、喜怒哀楽の表現の工夫についてお伝えします。[adcode]表情の豊かさは、女優の幅を広[…]
モデルや芸能人など正統派美人の顔は、左右対称です。
スキのない顔、ツンとした美人は左右対象であることが多いのです。
一方、人間らしいのは、多くの人がそうであるように左右非対称です。
鼻を中心に右半分、左半分で顔を作ると別人になるほど左右が違う人もいます。
能面も目の大きさ、目尻の上がり具合、切れ長具合、口角の上がり下がり具合など、計算されたゆがみがしこまれています。
小面は実はふたえまぶた
舞台で見るときは小面の切れ長の涼しげな瞳は、ひとえまぶたに見えていました。
近くで見ると、二重まぶただったのです。
これは驚きでした!
「美は細部に宿る」と言いますが、こんなところにも能面の美しさがかくされているとは、発見でした。
小面の表情の決めては口もと
女優さんは口角を上げることで笑顔を仕上げるといいます。
能面も同じで、生き生きとした表情をしている女面は口角が上がっています。
あからさまにキュッと上がっているのではなく、能面師の手仕事と微妙な調整加減でさりげなく上品なのです。
若い女性である「小面」は口角がキュッと上がりチャーミングです。
小面の変形、「孫次郎」も若い女性。
口もとは年齢を表すカギでもあります。
無表情といわれる能面ですが、目を凝らしてすみずみまでながめてみると、意外な工夫がされていて驚きます。この記事では能面に隠された秘密と、喜怒哀楽の表現の工夫についてお伝えします。[adcode]表情の豊かさは、女優の幅を広[…]
年齢を重ねた痩せ女は、うつろな目、口もとが下がり人生の悲しみを感じさせます。
丸みを帯びたなめらかな曲線
人間の顔を元にした能面なので、曲線でかたちづくられているのはあたりまえですが、実に曲線がなめらかなのです。
ムダがないといいますか、全体がひとつながりになったようなつるりとした玉のよう。
能面の美しさは引き算の美学
細部に能面師の細かな調整があるからこそ、能面は生きているような表情を持つことがわかりました。
能面は近くで見るのと少し離れて見るのとでは印象がずいぶん違います。
能楽師がつけて演じるとまた違って見えてくるから不思議です。
生き生きとして本当に生きているように見えてきます。
昨日見た顔と今日見た顔も違います。
無駄な要素が極限まで削ぎ落とされているので、見る人の心の状態によって表情も違って見えるのではないかと思います。
「能面のような顔」これからはほめ言葉で使いたい!
能面と向き合って対話してみて、美しい能面は見えないところに工夫が凝らされていることがわかりました。
「能面のような顔」はむしろほめ言葉として使いたい
能面の美しさを理解する入り口に立てた今は、そんなふうにさえ思います。
この記事を読んでくれはったあなたにもぜひ、能面の奥深い世界を味わっていただきたいと思います。
能を見たことのない人でも、能面はどこかで目にしたという方も多いと思います。能面と聞いてどんなもんをイメージされますか?たぶん、代表的な女面ではないでしょうか。うりざね顔におちょぼ口、空(くう)を見据えたような視線。[…]
能の魅力とは?簡単にわかりやすく!【誰でもわかる初心者向け徹底解説】
伝統芸能の中でも能は、とっつきにくくハードルが高く感じられるようです。まして能楽堂に出向くのは気おくれしてしまう人も多いかと思います。むかしのことばで話すので理解しにくく高尚(こうしょう)なイメージがあるのは否定できません。[…]
最後まで読んでくれはって、ほんまにおおきに〜〜ありがとうございます!