初心忘るべからず
入学式や入社式で一度は耳にしたことがあることばではないでしょうか。
初めて取り組むときの初々しい気持ちを持ち続けなさい。そんなふうに覚えている人も多いかもしれません。
しかし、「初心忘るべからず」にはもっと深い意味があったのです。
この記事では、「初心忘るべからず」のことばを残した世阿弥(ぜあみ)が、このことばに込めた思いと、本来の意味、使い方をお伝えします。
「初心」も「初心忘るべからず」も2とおりの解釈がある!
日本語はなかなか奥が深く意味を複数持っていることばはめずらしくありません。
「初心」もそうで、辞書で引くと、
【初心】
- 最初に心に決めたこと。最初の決意
- 物事を始めたばかりで未熟なこと。初学。
- 世なれない事。うぶ。
出典:旺文社国語辞典[第10版]
と出ています。
続いて、「初心」の使用例では
【初心忘るべからず】
- 能楽で、芸のまなびはじめのころに得た境地を忘れてはならないことの教え。
- 転じて一般に、物事を始めたときの純粋な気持ちをいつまでも持ち続けなければならないという教え。
参考:世阿弥の能楽論書「花鏡」にある言葉。
出典:旺文社国語辞典[第10版]
とあります。
ものごとを始めたときの最初の決意を持ち続けるという意味は、世阿弥のことばを一般向けに解釈したことばです。
一般にふだんの生活でパッと出てくるのも、こちらの意味が多いでしょう。
「初心忘るべからず」に世阿弥(ぜあみ)が込めた思いとは?
世阿弥(ぜあみ)は、「初心」を、2.ものごとを始めたばかりの未熟な芸の意味として使いました。
例えば茶道でしたら、誰でも始めたばかりは満足に道具を使うこともできず、カッコ悪さをさらけ出してしまいます。
そんなカッコ悪い時代があったことを折々で思い出して、今よりもっと上達できるように努力しなさいという意味です。
カッコ悪い過去の自分は、できれば思い出したくないもの。
でもあえて思い返すことで、二度とあんな失敗はしない!自分で自分をいましめることになりますね。
自分が未熟だったころのことを忘れてしまうと、ひととおりの芸がができるようになった自分に満足してしまいます。
芸事にとって慢心(まんしん)は敵!
慢心してしまうと、そこで成長が止まってしまう。それ以上の成長は望めません。
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自分に満足してしまわないように、過去を振り返りつつ、40代は40代の、50代は50代の年齢ごとでできる努力を続けていきなさいという教えです。
常にハングリー精神を持ち続けていたいと思います。
深い言葉ですね!
一生満足はできないかもしれないけど、私も思い出したくない過去もときどき思い返して向上心を忘れないようにしたいな、と思います。
「初心忘るべからず」本来の意味と使い方は?誤用しやすいので覚えておくと安心!
世阿弥的にいうと、能楽で、芸のまなびはじめのころに得た境地を忘れてはならないことの教え→カッコ悪い自分を忘れず精進しなさいという意味が本来の使い方です。
耳から入ったことばのとおりに受け止めてしまったのが、このことばが誤って使われる元となったのかもしれません。
しかしながら
転じて一般に、物事を始めたときの純粋な気持ちをいつまでも持ち続けなければならないという教え。
参考:世阿弥の能楽論書「花鏡」にある言葉。
出典:旺文社国語辞典[第10版]
という使い方も間違いではありません。世阿弥的初心を踏まえた上で使うと、よいかもしれません。
四字熟語:初志貫徹(しょしかんてつ)とどう違う?
「初志(しょし)」は、
【初志】最初に思い立った意志(考え)
出典:三省堂国語辞典[第5版]
「貫徹(かんてつ)」は、
【貫徹】志(要求)などをあくまで実現させること
出典:三省堂国語辞典[第5版]
四字熟語「初志貫徹(しょしかんてつ)」は、自分の考えをやり通すという意味です。初心忘れるべからずに行動がともなっているのが、初志貫徹です。
「初心忘るべからず」まとめ
人生も芸事の世界も、日々努力、精進です。
型を守りつつ新しいことに挑戦し、自分を磨いていきたい!
過去の積み重ねの上に今の自分があることを忘れずに精進していきたいと思いました。
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