能面 翁に隠された意味と祈りの心、黒い翁と白い翁の違いとは?

能は神様に捧げるものですが、中でも特に神聖なものとされている特別な能があります。
演目「翁(おきな)」です。

演目「翁(おきな)」で使われる能面は、その名も翁(おきな)。
満面の笑みをたたえた、能面でも珍しい笑顔の面で、能の演目翁(おきな)を演じるときだけ使われる特別な能面です。

他の能面がいろいろな演目に使われるのに比べて、翁(おきな)は演目翁(おきな)でしか使われません。

しかも、翁(おきな)の能面を使うのは、新年など限られたときと決まっています。

この記事では、能面翁(おきな)に込められた祈りの心と、翁にまつわる興味深い話題をお伝えします。

能面 翁にはどんな意味がある?

能の「翁(おきな)」は儀式性の強い能です。物語を題材にした通常の能とは違い物語はなく天下太平(てんかたいへい)国土安寧(こくどあんねい)を願う一種の儀式です。

「翁」でシテ(能を舞う主人公)がつけるのは能面「翁」です。

翁の能面は深いしわが刻まれた老人で、目もと、口もとに笑みをたたえています。

 

糸を張り付けた丸いまゆ、長くのびたあごひげなど、他の能面には見られない特徴があります。

また、下顎(したあご)が動くようにできています。

ただ、役者がしゃべると同じように動くかというとそうではなく、造りとしてそうなっている特徴があります。

能面・翁
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能面

奈良時代に中国から伝わった散楽(さるがく)の影響を色濃く残したおおらかな笑顔の能面です。

貴族社会へと発展する以前、農耕儀礼として行われていた宗教行事にルーツをもちます。

翁の能面は、演目翁でしか使われません

小面(こおもて)など冷静沈着な能面とはまた違った趣(おもむき)の翁(おきな)面は、国土安寧、五穀豊穣を願い満面の笑顔をたたえています。

能の演目「翁」能はにして能にあらずとはどういう意味?

演目翁(おきな)は、新年などおめでたいときに披露されます。

新春、能楽堂に足を運ぶと「翁(おきな)」が演じられることが多いです。

「翁(おきな)」が能にして能にあらずといわれるわけは、新年などに限って上演されることに加え、終始一貫して祈りが主題となっているからです。

舞台にしめ縄が張り巡らされるのも、他には見られない大きな特徴です。

翁(おきな)の演目は、世阿弥(ぜあみ)が室町時代に能を大成した以前からすでにありました。

散楽の流れを組む「翁(おきな)」は、祈りの芸能でした。

能の原点となった祈りが凝縮されている翁は、当時の人々にとって鑑賞する芸能ではなく無事に日々を過ごすための祈祷だったのです。

翁を舞う1週間前から禁欲的な生活をするシテ(能を舞う主人公)

翁(おきな)を舞うシテ(能を舞う主人公)は、舞う1週間ほど前から禁欲的な生活に入ります。

潔斎精進(けっさいしょうじん)」といい、肉食と飲酒を断ちます。

前日と当日は「別火(べっか)」といい、食事やお風呂に家族とは別の火を使います

別火とは、むかし穢れ(けがれ)は火から広がっていくと考えられていたため、神様になるために火を別にして心身を清める意味があります。多少簡素になっているとはいえ、今でもこの慣習は受け継がれています。

当日は鏡の間(演者が舞台に出る前の部屋)に翁の能面をお供えして、御神酒(おみき)をいただいていから舞台に上がります。

神になって舞うためにみそぎを行い、心身を清める。

信心の延長線上にあるのが、能という芸能なのだと思います。

能楽師は非常に神と近いところで暮らしを営んでいる、能が神様と通じる芸能といわれる由縁(ゆえん)です。

能面翁は髭(ひげ)をたくわえているのはなぜ?

翁(おきな)には、このように、ふつうの能とは違う特徴がありますが、ひげをたくわえているのも翁(おきな)の長寿を表しています。

ひげをたくわえている能面は他にも、小尉(こじょう)などの男面がありますが、翁(おきな)は神様の化身です。

高齢のめでたさと生命力を宿した神様です。

能面翁の白い翁と黒い翁の役割分担とは?

演目翁(おきな)には、白い翁と黒い翁が出てきます。

 

はじめに白い翁が国土安泰を祈り舞い、次に黒い翁が五穀豊穣を祈り舞います。

白い翁は、国土安寧(こくどあんねい)を祈る神様。

 

黒い翁は田の神様と考えられており、ここにも奈良時代の散楽のおもかげが見てとれます。

黒い面は農作業で日焼けした老人を表しています。

 

白い翁と黒い翁は役割分担が決まっています。

白い翁は能役者が、黒い翁は狂言役者が演じます。

能面・黒式尉
能面・黒式尉(こくしきじょう)五穀豊穣を祈る神、翁のあとに出番となる

まとめ

散楽(さるがく)の流れをくむ能翁(おきな)は、。日本古来の田楽信仰と結びついた儀式性の強い能です。

今でも、由緒ある神社では翁(おきな)の能面を保有している神社もあります。

演目翁(おきな)は、新年に披露されることが多いので、機会があればぜひ一度鑑賞してみてください。

 

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