能舞台には、普通の劇場と違って独特のかたちがあります。
橋掛かりも、能舞台ならではの装置のひとつです。
この記事では能舞台の橋掛かりのもつ意味と使われ方についてお伝えします。
能舞台の橋掛かりのもつ3つの意味
橋掛かりは演者が入退場する通路ですが、その他にも能独特の3つの意味があります。
あの世とこの世をつなぐ道
能の演目では、この世のものではない亡霊や神などが登場します。
揚幕の向こうがあの世、舞台がこの世だとすれば、橋掛かりはあの世とこの世をつなぐ道に見立てることができます。
シテ(能の主役:亡霊であることが多い)が揚幕(あげまく)から登場して橋掛かりをそろりそろりと歩いて舞台に出てくる様子は、今から始まるプロローグ的な意味合いも感じさせます。
舞台の一部
自分の出番を終えて次の出番までの間、演者が橋掛かりで座って控えている場合があります。
このとき舞台からは見えていないという設定になっています。
また、橋掛かりの上で演技をする演目もあります。
演目「羽衣」では橋掛かりの欄干を、天女の羽衣をかける場所として使います。
空間的距離、時間の経過を表す
旅人が遠いところからやってきたり、旅に出るという設定にも使われます。
また、狂言では附子をはじめ、橋掛かりを効果的に使った退場方法がとられます。
主人が太郎冠者を「やるまいぞ〜やるまいぞ〜」と橋掛かりを奥へ奥へと追い込みながら幕の向こうへと消えていきます。
余韻を残した終わり方は、時間と空間を移動している感じがよく出ています。
このように橋掛かりは単に通路としてだけでなく、物語の演出効果をになっていることがわかります。
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能舞台の橋掛かりは斜め奥へと伸びている
橋掛かりは舞台と鏡の間(かがみのま:主役が面をかけて出番を待つ神聖な場所)を結んでいるのですが、斜め奥へと角度がついています。
これは奥行きを感じさせる効果があります。
橋掛かりの角度は能舞台によっても異なっています。
国立能楽堂の能舞台は、橋掛かりを長く角度も深くして、もともと昔からの能舞台の様式に近づけてあります。
橋掛かりの長さや角度は時代によって変化してきました。
現代では、橋掛かりは昔よりも短く、角度もゆるやかになってきています。
一の松、二の松、三の松が表すもの
橋掛かりには欄干がついていて、その前に松が3本植えられています。
手前から一の松、二の松、三の松といい、遠近感を感じさせるよう、順番に小さくなっています。
限られた空間で距離感を演出するため、巧みに視覚的な効果が用いられています。
このように能舞台にはわかりやすい舞台装置はない代わりに、さりげない舞台装置と演出効果がかくされています。
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能舞台の橋掛かりと歌舞伎の花道との違い
ところで、能舞台の橋掛かりと歌舞伎の花道って一見似ているようですが、まったくといってよいほど異なっています。
入退場の道である以外は、別の意味をもちます。
また、旅に出たり、遠くから訪ね人がやって来たりといった時間的変化を表す
その違いは似て非なるものです。
能と歌舞伎という芸能の違いが表れているように思います。
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