狂言といえば笑いの芸能、太郎冠者(たろうかじゃ)が大活躍、大奮闘する喜劇です。
太郎冠者が仕える大名屋敷で起こる小さな出来事を、皮肉とユーモアたっぷりに描きます。
太郎冠者とはどんな人物で、背景にはどんな事情があるのでしょう。
この記事では、狂言の盛り上げ役(キーパーソン)でもある太郎冠者の性格や役割、衣装(装束)についてお伝えします。
太郎冠者ってどんな意味?役割は?
太郎冠者とは、狂言の役柄で家来として登場する人物のことです。
冠者(かじゃ)とは家来という意味で、太郎冠者とは家来の筆頭(ひっとう)という意味になります。
家来の二番手が次郎冠者(じろうかじゃ)で、太郎、次郎は人物の名前ではなくAさん、Bさんといった記号的な意味があります。
太郎冠者ってなんだかおおげさな名前ですが、従業員のAさんのように理解するとわかりやすいですよ。
伝統芸能には、このように聞き慣れない名前がよく出てきますが、現代語におきかえると理解しやすいですね。
大名家で働く従業員の太郎冠者さんが、労働条件の改善を求めて主人に対してストライキを申し出たり、業務効率化を提案したりします。
むかしも今も、働く人は上司に言いたいことがたくさんあるのですね。もっと給料を上げろ〜とか仕事がキツイ〜なんとかしろ〜とか(笑)
演目によっても太郎冠者の性格は異なるのですが、共通しているのは主従関係の問題をユーモアを交えたとんちでやり込め、共感を誘うところです。
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太郎冠者は主人に対して仕事の不満をストレートに言うのではなく、頭を使って切り返し上司をぎゃふんをといわせます。
このへんが太郎冠者のかしこいところですね!
要領が良く憎めない、でも言っていることには一理ある。
主従関係の不満や問題を、ちょっとずらした角度から攻めてやり込めるやりかたが、笑いと共感を誘います。
私も太郎冠者が上司をやっつける演目は大好きで、言いたいことをよくぞ言ってくれました!とスカッとします!
狂言の笑いは陰湿さがなく明るい笑いなので、観ていても気持ちがよく健康的な笑いで、心の健康にも良いのです!
太郎冠者があるものをすっかり食べてしまう狂言、教科書にも出てくるあの演目は?
狂言の代表的な演目として有名なのが「附子(ぶす)」です。国語の教科書にも出てくるのでおなじみの方も多いかもしれませんね。
主人の留守中に太郎冠者と次郎冠者が、猛毒の附子をすっかり食べてしまうお話です。
わかりやすい筋立てなので、初めて狂言を観る方や初心者にもおすすめです。
猛毒の附子には近づくなと言い残して出かけた主人ですが、禁止されたら見たくなるのが人間の性(さが)。
太郎冠者と次郎冠者がおそるおそる桶(おけ)をのぞいてみると、
はたして附子は猛毒ではなく、当時ぜいたく品だった砂糖でした。(砂糖は水あめのかたちで桶に保管されています)
めったに食べられない砂糖を、太郎冠者と次郎冠者はすっかり食べてしまいます。
太郎冠者と次郎冠者は言いわけを考えるうち、良い考えを思いつきます。
相撲(すもう)をとっていたら主人の大事にしていちゃわんを割ってしまったので、
死んでおわびをしようと猛毒の附子を食べた。ところが全部食べても死ねなかった、と。
見どころは、太郎冠者と次郎冠者が扇(おうぎ)を使ってさも水飴を食べているかのようにおいしそうに食べる演技。
家宝の茶碗や掛け軸を破る演技も見ものです。
茶碗を割る「パリーン」という音、
掛け軸を破る「バリバリ」という擬音、
まるでそこに茶碗や掛け軸があるかのような身振り手振りの迫真の演技です。
そこにないものをあたかもあるように感じさせてくれるのは、狂言師の演技力のなせる技。
それにしても太郎冠者は本当に頭が良いですね!
やってしまってから言いわけを考えるところも、神経がずぶとい!
こんなおおらかな性格の太郎冠者だから、憎めません〜〜
いたずらや悪だくみばかりする太郎冠者ですが、根底では主人と信頼関係で結ばれているんやと思います。
やるまいぞやるまいぞ!は太郎冠者を追い込むときの決まり文句
「やるまいぞやるまいぞ」とは狂言の終わりで、
主人が太郎冠者を追いかけるときの決まり文句、逃さないぞ〜逃さないぞ〜という意味です。
主人はやるまいぞと何度も繰り返しながら太郎冠者を追い込み、
橋掛かり(舞台の袖にある廊下のような場所)を奥に進み揚幕(あげまく)の中に消えていきます。
「やるまいぞ」のフェードアウトするセリフが余韻を残し、幕引きとなります。
さぁ、このあと太郎冠者は主人にどんなふうにしかられるのでしょうか。
舞台の上ではつかまらず、揚幕に消えたあとどうなるのか、観客の想像におまかせします、と終わるのです。
このあとも同じことが繰り返され続いていく、空間と時間の連続性をも感じさせるユニークな終わり方です。
あえて答えを出さないことで、観客に判断を任せる。
観客に宿題を残して終わる。
この手法は、見る側に強い印象を残します。
主人に大目玉を食らった太郎冠者は一度は反省するものの、このあともまた悪知恵を働かせひょうひょうと世渡りをしていくのでしょう。
そんな想像力をかき立ててくれます。
この世渡り上手なことこそが太郎冠者の持ち味です。現代でもこんなキャラクターがいたら、明るい笑いの絶えない職場が実現されることでしょう。
太郎冠者の衣装の特徴は?
太郎冠者は大名の家来という役柄なので、衣装(装束・・・正式にはしょうぞくといいます)はいわば仕事着です。
現代でいえばサラリーマンのスーツのようなもの。
袴は動きやすいくるぶし丈、着物(着附・・正式にはきつけといいます)は格子柄が多いです。
格子柄は現在でもそうですが、カジュアルな印象を与えますので、鑑賞していても「あ、家来だな」と直感的にわかります。
着物の上に肩衣(かたぎぬ)といわれるベストのようなものをつけます。
肩の部分が張り出して、サラリーマンのスーツのような正装感が感じられます。
肩衣の胸にさりげない模様があったり、背中に大胆な絵柄が描かれていたりと、地味な衣装の中にもおしゃれ心が隠されています。
ぜひ後ろ姿にも着目してみてください。
足袋(たび)は卵色です。
これは、室町時代、笑いの狂言はシリアスな能よりも一段低く見られていて、神に捧げる色とされる純白ではなくクリーム色の足袋を履くようになった名残りです。
狂言の衣装は、大名屋敷のくらしを感じさせてくれる親しみやすさがあります。気取らないふだん着で、清潔感がある衣装です。
太郎冠者とは狂言でどんな人物?まとめ
太郎冠者は、狂言に登場する人物の中でもっとも共感できて自分を投影できる人物です。
怠けものであわてんぼう、口がうまくて要領が良い。そんな身近にいそうな人物です。
誰もが持っている自分の弱いところ、ダメなところを、太郎冠者に重ねてしまいます。
ある意味、太郎冠者は自分自身ともいえます。
主従関係の問題をユーモアをまぶしたこざかしい知恵で、自分に都合のよいように問題を解決しようとする。
狂言の盛り上げ役、それが太郎冠者なのです。
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