能舞台の松に込められた深い意味とは?竹も描かれているのはなぜ?

能舞台には松が描かれていますが、どんな意味があるのでしょう。
この記事では、能舞台にある松の意味と、能舞台の歴史、独特の工夫やしかけについてもお伝えします。

能舞台にはなぜ松が描かれているの?鏡板って何?

能舞台の正面に座ると、奥に大きな松の絵が目に入ってきます。

松が描かれているのは「鏡板(かがみいた)」といい、板ではなく鏡舞台の前に立っている松が鏡に写っているという設定になっています。

つまり、板を鏡に見立てているのですね。

松は神の依り代(よりしろ)といい、神が宿る木とされてきました。

むかし、神社で能が演じられていたころ、境内(けいだい)の松に向かって演じていました。

それを能舞台に再現したというわけです。

松の絵は、著名な絵師によるものが多いです。能舞台によって絵師の作風も違います。

長い年月を経た老松が多いのですが、能舞台によっては、梅がからんでいる松や鳥が止まっている松もあります。

京都観世会館、能舞台の松
京都観世会館の能舞台の松は、京都出身の日本画家・堂本印象作。抽象的な表現が特徴

能狂言をみるときには早めに着席して松をじっくり味わうことをおすすめします。

今日の松の枝ぶりはどうかな〜と行った具合に。

実際演目が始まってしまうと、物語に入り込んでしまいますので松の絵は背景と化してしまいます。

演目が始めるまでのプロローグとして

能舞台によって個性ある松を味わうことで、今から始まる演目がより楽しめるはずです。

松だけでなく竹も描かれている?

能舞台には、竹も描かれているんですよ!

いちばん見やすいといわれる正面(舞台を正面から見る席)に着席すると気づかないのですが

中正面(舞台を斜めに見る席)や、脇正面(舞台を横から見る席)に座ると松の描かれた板と90度になる板に、竹が描かれています。

能舞台の竹と梅についてはこちらに詳しく解説していますので、後でお読みくださいね。

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能舞台の松と竹

いつもは特等席の正面ばかりとっていた私ですが、先日初めて中正面に着席して、竹の絵が描かれているのに気づきました。

いつも同じ角度ばかりでは、発見も少ないですね。たまには角度を変えてみると、新たな発見があるものです。

能舞台の松と竹
京都観世会館 能舞台の松と竹

能舞台はいつからあるの?成り立ちについても解説!

猿楽(さるがく)から発展した能は初期の頃、神社の境内(けいだい)に仮設された簡単な舞台で演じられていました。

観客席には屋根がなく、敷物を敷いて見物していました。

世阿弥(ぜあみ)が能に幽玄(ゆうげん)を取り入れて、公家(くげ)や武家のたしなみとなってからは、武家屋敷に組み立て式の能舞台が設けられるようになりました。

武家の家では、能舞台があるかどうかが家の格を判断する基準でした。

金沢能楽美術館 能舞台のミニチュア
能舞台のミニチュア 武士はお屋敷に能舞台を持つことがステータスだった
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能舞台

江戸時代になり庶民にも広がりを見せた能狂言は、神社の能舞台の見物席にも屋根がつくようになりました。

観客にも配慮するようになったのですね!それだけ能狂言が庶民の間に広がっていた証拠です。

御香宮神社の能舞台
御香宮神社(京都市)の境内(けいだい)にある能舞台、毎年秋には薪能が開催される

能舞台が現在のように建物の中に収められるようになったのは、明治になって近代化が進められたからです。

能狂言の歴史は650年以上と長いのに、能舞台が今の形になったのは意外と歴史が浅いんですね!


能舞台は室内なのに屋根があるのはどうして?

能狂言は江戸時代までは、武家のたしなみとして発展してきました。

明治になり、日本が近代国家に生まれ変わるとき、武家のたしなみから伝統芸能へと、位置づけが変わりました。

能舞台も能も国が保護していく芸能となりました。

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能舞台

能舞台は宮大工の技や、日本古来の技術を使って建てられます。

伝統の技を守り継承するため、屋根ごと能楽堂という劇場の建物の中に取り入れたのです。

そんなわけで、能楽堂(建物)の中に能舞台(舞台)がある入れ子式になっています。能舞台が屋外にあったときの名残りといえます。

私は初めて能舞台を見たとき、入れ子式の構造はなんだかミニチュアみたいでワクワクしました!

能舞台の屋根
能楽堂の中にある能舞台には屋根がある。むかし屋外で演じられていた名残り。

能舞台で音がよく響く工夫って?

能狂言では演者はマイクを使いません。音がよく響くように、床下にしかけがあります。

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能舞台の模型

大きなかめをいくつか設置して、空気がかめに入り反射で大きく響くよう工夫されています。音や声が共鳴するように、角度や深さなどを調整しています。

能舞台はなぜ、どんちょうがないの?

能楽堂では、一般の劇場のように開始のブザーもなければどんちょうもありません。

始まりがいつか終わりがいつか慣れないうちは、とまどうかもしれません。

でも、大丈夫!笛の調べが聞こえてきたら、開始の合図です。

どんちょうがないのは、おそらく余韻(よいん)を楽しむためではないかと、私は考えています。

特に狂言の終わりは、静かにフェードアウトしていくような感覚です。

あのときに幕が下りたら、一気に現実に引き戻されるような気がします。

どんちょうの代わりになるものが、揚幕(あげまく)です。

橋がかり(舞台に通じる廊下のようなもの、舞台の一部でもあります)の左奥にカラフルな幕があります。揚幕を上げ下げして、役者は入退場します。

能舞台の揚幕
左奥が能舞台の揚幕、役者はここから出入りする

他にも能舞台独特の特徴は?

白洲

むかし、能舞台が屋外にあったときの名残で、舞台をぐるりと囲む白い砂が敷きつめられている部分があります。

これを白洲(しらす)といい、この部分はむかし屋外では地面でした。現在の白洲(しらす)は、能舞台で演じる役者を照らすレフ板の役目もあります。

橋掛かり

あと、橋掛かりという役者が登場する橋も能舞台ならではの特徴です。

橋掛かりについてはこちらで詳しく解説していますので、後でお読みくださいね。

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能舞台の模型

貴人口

最後に深いお話をひとつ。
能舞台右手に今はほとんど使われない出入り口「貴人口」があります。

封建社会の日本では、能をみずから舞った豊臣秀吉など身分の高い人が能舞台に出入りするためのとびらでした。
なんでも、豊臣秀吉は「ワシがどうして頭を下げて出入りしなければならんのか、かがまなくても出入りできる戸を作れ!」と言ったのだとか。

現在はそのような使い方はされず、別の使い方がされるようです。

能では主役のシテ(能面をつけた役者)が万が一倒れたときなどは、後見(こうけん:黒紋付きにはかまを着た人)が、途中から主役の代わりをつとめる決まりになっています。

能はむかし神様に捧げるものだったため、どんなことがあっても、途中でやめてはならないというおきてがありました。

神様が宿る松に向かって演じるということは、文字どおり命を捧げる覚悟で演じたのしょう。

今でも、その心は変わらないと思います。

今はむかしとは時代も変わっているので、真偽のほどはわかりませんが、役者に万が一のことがあったら、この「貴人口」から退出するそうです。

といっても、私はそのような場面は一度も見たことがなく、ほとんどの人が見たことがないと思います。

それにしても、舞台で舞うとは命をかけることなんだとこのエピソードからもうかがい知ることができます

能舞台の貴人口
右側の木戸が貴人口、むかし身分の高い人が能舞台に出入りするために設けられた

能舞台にはなぜ松の絵が描かれているの?まとめ

神社で松を前にして舞われていたころの名残り
めでたさの象徴でもあり松には神様が宿るという考え方から
お抱えの絵師の絵を披露する

 

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能面中将

最後まで読んでくれはって、ほんまにおおきに〜〜ありがとうございます!